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世界のエリートが、教養として「美術史」を学ぶ理由とは【木村 泰司】

30年後の社会を支える「エリート」に不可欠な資質とは―。その問いを、各界をリードする方々にぶつけていく就プロのオリジナル連載。 今回は著書『世界のビジネスエリートが身に付ける教養 西洋美術史』(ダイヤモンド社)が好評の西洋美術史家の木村泰司(きむら・たいじ)氏にインタビュー。なぜ西洋美術史がエリートに必要な教養なのか、3回に渡って詳しくお話をお聞きしました。

欧米のエリートは、なぜ美術史をたしなむのか

―木村さんの新著『世界のビジネスエリートが身に付ける教養 西洋美術史』は、ビジネス書のコーナーに置かれていて、びっくりしました。企業からの講演の依頼も増えているそうですね。

木村泰司さん(以下、木村):増えていますね。大手企業様での社内セミナーを何度か開催したのですが、いずれも定員の倍近い応募がありました。

あとは早稲田大学エクステンションセンター(生涯学習機関)や朝日カルチャーセンターで開いている講座にも、たくさんのビジネスパーソンが来てくれています。

―そういった講座では、どのようなお話を?

木村:普通の西洋美術史(以下、美術史)の授業ですよ。

―日本の学校で学ぶような美術とは違うのですか?

木村:私は中学までしか日本にいなかったので、詳しくは分かりませんが、日本で学ぶ美術は造形や意匠についての解説が中心ではないでしょうか。

でも、欧米で学ぶ美術史というのは、画家になるための教育ではありません。

作品を通じて、その作品が造られた時代の社会背景や宗教、哲学などを知る手がかりとしての学問、という位置づけです。

海外の方とお付き合いがある日本人なら教養として美術史を学んでおいた方がいい、とおすすめしているのは、そういった面から、国や思想、哲学について学ぶことができるからです。

―海外の方は、日本以上に「教養」というものに重きを置いているのでしょうか。

木村:アメリカなら全米ベスト10の大学、フランスならグランゼコール、イギリスならオックスフォード・ケンブリッジというように、欧米においては「エリート教育」というものが残っていて、そこでは教養を非常に大事にしています。

一方、日本では「人文学など必要ではない」というようなことをおっしゃる方もいて、教養を軽んじる傾向が見られます。

―残念ですね、どうして日本ではそうなってしまうのでしょう。

木村:学問を実利的に考えるからではないでしょうか。

私が通ったアメリカの大学には、日系人や中国系アメリカ人がたくさんいたのですが、美術史の上級コースの授業に出ると周囲は白人ばかり。

そのときに、両親ともにエリート階級というクラスメートから「あなたの家は裕福なのね」と言われたことがあって。

「そんなことないよ」と答えたら、「だって、アジア系の親は就職してすぐに役立つ授業ばかりを子どもに専攻させるじゃない」と言われました。

一方、その授業は通常、美術史専攻の人しか選択しないものですが、中には物理学専攻のオランダ系アメリカ人もいました。

彼に受講理由を尋ねると、自分のルーツとなる国の美術の話ができないと社会人になって恥ずかしいから、と当然のように答えたんです。

そういった欧米人のエリート意識の高さに、とても驚かされたことを今でも覚えています。

―確かに、日本の大学生は、教養のために美術史を取ろうとはあまり思わないかも...。

木村:でも欧米は違います。特にヨーロッパでは、エリート層にとって美術史は教養のために必須のものと捉えられていますから。

イギリス王室のウィリアム王子とキャサリン妃が、美術史を専攻しているときに知り合った、というのも良い例ですよね。

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美術史は、世界での共通の話題となる

―今、日本の企業が社員向けに美術史のセミナーを開いたり、社会人講座で美術史を受講するビジネスパーソンが増えたりしているとお聞ききしました。なぜビジネスの場で、美術史の知識、教養が必要とされているのでしょうか。

木村:わかりやすい例で言えば、海外からエグゼクティブが来日したとき、2時間のディナーで話が持たないという人が多いからのようです。

そういう席で一番、無難な話として、話題に上りやすいのは芸術についてでしょう。

だから特に幹部候補のような人には、教養として美術史を学ぶことが重要となってきているのでしょう。

―確かに、会食の席で、宗教と政治の話はタブーですものね。

木村:いきなりは、ね。でも、相手が同じ階層の人だと思ったら、そういう微妙な、普段なら話題にしにくいテーマであっても話せるようになります。

―その話の入り口として、美術の話題がある、ということなんですね。

木村:その通り。美術って、その人のクラスが出やすいテーマだから。美術の話をして、お互いの共通理解ができたら信頼が生まれ、次の大事な話ができるようになるんですね。

ここで言うクラスというのは、お金持ちの家に生まれたかどうか、ということだけで測るものではありません。

その人がこれまでどういう環境で育ち、どのような教育を受けてきたのか、どういう友人関係を築いてきたのか。そういったことをすべて含めてのクラス、ということです。

blue―同じクラスの人間だと相手に認識してもらえたら、会話がスムーズに進むんですね。

木村:ええ、すごくスムーズに。繊細で、普段なら避けてしまうテーマでも、腹を割って話せるようになります。そういう意味で、「美術」と言うのは共通のワードになりやすいんです。

―ちなみに、美術ではないほかの芸術の話題についてはどうですか?

木村:ほかの芸術でも悪くはないのですけれど、文学にしても音楽にしても、あまりに幅が広いし、人によって好みがあるでしょう。その点、美術史というのは、そこまで広くなく分かりやすいから、入り口としては入りやすいと思います。

日本人として日本のことをよく知っておくのは大事ですよ。でも同時に、相手の国の文化や歴史も知っておいた方が比較して考えられるし、日本のこともある種、客観視して、きちんと伝えられるようになると思います。

―なるほど。相手の文化を知る、一番ジェネラルな窓口、としての美術史なのですね。

木村:その通り。それに、やっぱり、美術のことを知らないとか、興味がない、というのはちょっと恥ずかしいでしょう。フランス人でも、自分より美術について詳しい日本人がいたら、ちゃんと尊敬してくれるはずですよ。

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