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インタビュー
2018/12/10

余命2年の学生起業家が悟った「キャリア選択」の本質

旧帝大から早慶までの「上位5%」に属する、最優秀層の就活生にキャリア選択にまつわる本音を聞く本シリーズ。今回、インタビューしたのは、早稲田大学4年生(文系、19卒、男性)のSさんだ。有名外資系戦略コンサル、マッキンゼーの他、就活人気ランキング上位の名だたる企業から合計7つの内定を獲得した。 しかし、そのすべてを辞退して「起業」の道を選んだという。現在、子供の頃からの持病が再発し医師から「余命2年の可能性も」と告げられているSさん。彼が見つめた「キャリアの本質」とは?
余命2年の学生起業家が悟った「キャリア選択」の本質

学生起業で従業員23名まで成長するも…

大学1年生からキャリアについて考えていた、Sさんの就活前半について聞いた前編は以下から

ー前編では、業界を絞らず全方位的にキャリアを検討していたSさんが、2年生のサマーインターンを通じて、「外銀」「商社」「不動産」「メーカー」を選択肢から外すまでの話を聞きました。

Sさん:今振り返ると、確かに、2年生の夏が一つのターニングポイントだったかもしれないですね。業界が「IT」「コンサル」「教育」に絞られ、自分にはビジネスの方が向いているということがぼんやりと見えてきた。それまで続けていた司法試験と公務員試験の勉強をやめたのも、この時期です。

―起業を決めたのも、このタイミング?

Sさん:そうですね。志を同じくする友達2人と、2年生の夏から起業の準備を始めました。登記をしたのは1年半後で、そこまで運転資金を稼いでいました。会社を立ち上げて半年がすぎましたが、現在従業員は23名まで成長しています。

―事業がうまくいきそうだから、内定を辞退して学生起業家の道を選ぼうと?

Sさん:そう単純な話でもないんです。2年生の夏に起業しようと決めて、3年生の終わりに実際に会社を立ち上げるまでの間も「就活」は継続していましたし。

対策ゼロでマッキンゼーから内定獲得するも辞退

―起業の道も模索しつつ、就活も継続していたのですね。

Sさん:はい。たとえば、外コンには3年生の冬にジョブ(業務疑似体験型の選考フェーズ)に参加しましたね。しかし、これまた「行きたい!」という強い思いがあったわけではなく…。消去法で残っていた選択肢でしたし、ただ漠然と「優秀な人がたくさんいそう」「見識が広がりそう」というイメージがあって参加を決めました。

―起業家志望の学生が、経営を学ぶために外コンに就職するケースも多いですしね。覗いてみて、どうでした?

Sさん:僕の受けたのが、外コンの中でも特に人気のマッキンゼーだったこともあると思うのですが、とても優秀な学生が多い印象でした。ただ、その「優秀さ」がちょっと極端かな、とも正直思いましたね。ジョブで出会った学生は、大きく2タイプに分かれました。トップ大学の理系院生で頭脳はキレッキレでも話していることが高度すぎる天才タイプと、とにかくガッツがあり与えられた課題をやり遂げるグリットがすごい体育会タイプに。

僕は、どちらのタイプでもなかったので、ジョブの間はずっと、天才タイプと体育会タイプの通訳をしていた感じですね(笑)。その様子が採用担当の方の目に留まって、それほど努力したわけでもないのに、内定をもらってしまいました。

―マッキンゼーといえば、選考対策をバッチリやって万全の態勢で臨む就活生も少なくないと思いますが、そういう準備は特にしなかった?

Sさん:していませんでした。外コンの業務それ自体や、そこで働く人に興味があっただけで、選考をクリアしようという意識が低かったのだと思います。ふらっとジョブに行って、自分にできることをやっていたら、すっと内定をもらえました。でも、結局、悩んだ末に内定辞退することになるのですが…。

「外コンに受かる」=「東大に受かる」という就活の構図

―特に対策もせずに外コンから内定をもらって辞退というのは、すごいですね。

Sさん:「すごい」ですか? そう言っていただけることは嬉しいですが、僕自身の中では少し抵抗があります。

今の就活って、大学受験の名残が強すぎると思うんですよね。決められたスケジュールに沿って、大学偏差値ランキング上位=就活における企業人気ランキング上位から受けていこうという発想が、大学受験そのまんまだな、と。外コンとか、特に難易度が高くて知名度もあるから、内定をもらえたら「すごい」みたいなイメージが定着しているのかもしれません。

―「外コンに受かる」=「東大に受かる」と同じような構造かもしれないですね。

Sさん:就活って、むしろ結婚に近いのかな、と思います。結婚の経験はまだありませんが(笑)。結婚相手って、自分なりの基準で選ぶものですよね。世間的な評価じゃなくて、自分の内面にある軸と合っているかどうか。一生を添い遂げたいと思えるかどうか。例えれば、外コンから内定をもらうって、みんなから超人気の女優さんから好かれたみたいなことかもしれないですけど、別に自分にとっては全然意味ないです。

―起業の準備をしながら、マッキンゼーからも内定獲得していたSさんの大学3年。最終的に、マッキンゼーの他、IT系メガベンチャー、大手人材系サービス、外資系メーカー、急成長中のベンチャーなど合計で7つの内定を獲得していますね。

Sさん:はい。そして最終的に4年生の6月末で全社内定を辞退しました。

「余命」の生き方を決めた一冊の本

―では、いよいよ起業一本に絞ろうと?

Sさん:いや、実はそういうわけではないんです。僕自身は、会社を続けていく気がないんです。短期間でそれなりに大きくしたし、ちゃんと利益も出せているので、今後順調に拡大していくことは目に見えているんですが、それだけでは自分が満たされないな、と。事業の規模を大きくしてビジネスとして成功させようとする仲間のことは心から尊敬しているし、彼らの熱量があってこそ今の成功があるわけですが、自分が本当にやりたいこととは違う。

―「就職」でも「起業」でもないとなると、何をやりたいんですか?

Sさん:どうしましょうかね(笑)。僕、実は病気で余命がそれほどないかもしれないんです。子供の頃から抱えていた持病が、21歳の夏に再発してしまって。その時に医師から「あと3年程度かもしれない」と伝えられたんです。21歳の夏といえば、3年生でまさにキャリアの方向性を絞り始め、これからまさに就活本番というタイミングでした。

―つまり現時点では「あと2年」かもしれない。

Sさん:そういうことになります。以前、内村鑑三の『後世への最大遺物』という本を読んだんです。明治27(1894)年の講演をまとめたものなのですが、そこで内村鑑三が語った言葉に胸を打たれて。知人から勧められて読んだ本なのですが、自分の人生観と向き合うきっかけになりましたね。

―内村鑑三といえば、日本を代表するキリスト教指導者で、数年前NHKの人気番組『100分de名著』で取り上げられたこともあり、リバイバルの兆しがありましたね。

Sさん:正しく理解できているかわかりませんが、僕自身は、内村鑑三がこんなことを伝えたかったのではないかと解釈しています。「後世にお金を遺す人もいれば、事業や学校を遺す人もいる。ただ、最も価値があるのは、死ぬ時にその人が幸せな人生だったと思えることではないだろうか」と。

自分がどれほど頑張っても、「誰かに貢献できたかどうか」は、相手が評価することのなのでコントロールできないですよね。だったら、自分が向き合うべきなのは、「自分の人生をどう生ききるか」ではないかと考えました。

『後世への最大遺物』を読んで、自分に与えられた有限の時間を生ききったあと、「半径3メートルの大切な人」の記憶に自分の存在が残っていればそれでいいな、と自然と思えたんです。僕の大切な人たちも、やがて命を終えるでしょう。その間際に「Sというヤツがいたなあ、あいつがいてよかったなあ」と一瞬でも記憶によみがえらせてもらえたらそれで十分だな、と。

―大きなことを成し遂げるより、もっと大事なことがある、と。

Sさん:僕の人生は、あと2年しかないかもしれないし、あと60年あるかもしれない。でも、「ひとりひとりに向き合おう。半径3メートルの大切な人を幸せにしよう」という軸はブレません。そのための手段として現時点では、HR(ヒューマンリソース/人材)の領域で事業を始めるか、既存の組織をサポートする立場に就くことを考えています。あるいはまったく異なる方法をとるかもしれませんが…。そこにもワクワクしている自分がいます。

21歳で「余命3年」の告知はラッキーだった

―「余命2年」というと深刻な響きですが、Sさんはとても飄々としているように見えます。

Sさん:そうですね、今は前向きに捉えています。あと2年生きていくだけの貯蓄はできました。これからは、自分に与えられた時間の中で全力投球できる何かを見つけるだけです。起業した事業の方は、共同創業者に任せて自分はサポート役にまわり、現時点ではほとんど関わっていません。一応、長期インターンはしていますが、それもお金のためではなくやりたいからやっているだけ。「お金のために働かなきゃいけない」という状況に身を置きたくなかったので、蓄えはちゃんと残しておきました。

―錚々たる企業からの内定もすべて辞退し、みずから起業し順調に成長している事業からも手を引く。覚悟のある決断ですね。

Sさん:「あと2年しかない」と線が引かれていると、楽なんですよ。シンプルに、今したいことをすればいいだけだから。将来したいことのために、我慢して働きながら準備したり、慎重に伏線を張ったりするくらいなら、今やればいいと思うんです。将来、味わえるかもしれない楽しさより、今、心の底から堪能できる楽しさの方がずっと価値があるはずです。

その意味で、僕は21歳の時点で「余命3年半」と告知されたのは、とてもラッキーだったと思っています。そこから、人生が急にワクワクし始めたというか(笑)。これでもし80歳、90歳まで生きられたら、本当に幸せですよね。病気を抱えていてもいなくても、誰にとっても一日の価値は同じだと思います。来るかわからない「いつか」のために「今」を蔑ろにしないでください。今を大切にできる人のいつかは、絶対に幸せです。

―再来年までの命でも、100歳まで生きるとしても、変わらずシンプルに「今」を生きる。将来のために「今」を犠牲にしないSさんのキャリア観、いかがでしたか? 「上位5%の本音」では、引き続き、日本の未来を支えるエリート人材の選択に迫ります。次回もお楽しみに。

商社・戦略コンサルから内定を獲得しつつもいずれも辞退した東大生、Nさんの就活に迫った前回記事は以下から

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