大学1年の時、就活生に抱いた違和感
―「人気企業7社からの内定をすべて辞退した早大生がいる」と聞いて、まず驚きました。素朴な疑問として、「なぜ7社も?」と。優秀であれば、志望企業だけに的を絞ってもいいと思いますが。
Sさん:正直に言えば、自分の中で特に「やりたいこと」がなかったんです。大学を選ぶ時も、学部を選ぶ時も、説明しろと言われたら説明できる理由はありますが、それほど強いものではありませんでした。キャリアに関しても、確たるものが当時は何も見えていなくて。ただ、「食わず嫌いはイヤだな」と。何も知らないまま、「これはない」と人生の選択肢から外すようなことはしたくなかった。だから、就活も最初は全方位的に始めました。
―いろいろな業界を網羅的に見ようとするとかなり大変では?
Sさん:「就活」と言えるかわかりませんが、キャリア選択については周囲の学生よりかなり早めに動いていました。一浪していることもあり、「何かしないと」と焦りがあったのかもしれません。1年生の夏の終わりから合同説明会に顔を出して、大手・ベンチャー問わずまんべんなくブースを回っていました。
―通常、大学生が「就活」をスタートするのは3年生の秋ですが、Sさんは2年も早く就活の現場を覗いていたんですね。
Sさん:はい。でも、2年先取りしておいてよかったです。というのも、その際に目にした3年生たちの印象が決してポジティブではなくて。なんというか、採用担当者にへりくだってご機嫌取りをしているように見えました。内定をもらおうと必死になるその姿に違和感を覚えましたね。1年生の夏というタイミングで、あの違和感にぶつかったことは、キャリア選択をする上で大きなポイントになったと思います。
最初に選択肢から消えたのは「外銀」
―1年生の夏から全方位的にいろいろな業界の「下見」を始めたSさんですが、結局選考までにどのように選択肢を絞っていったのですか?
Sさん:1年生から2年生にかけては、まだまださまよってましたね(笑)。自分がどんな形で社会に出ていくのか、僕の中でも決めきれてないなくて。1年生の夏からは司法試験のために予備校に通い始めたり、プログラミングスクールを受講したり。
企業に関しては、合同説明会を通じて繋がりができた採用担当の方に誘われて、人事関係のイベントに参加していました。各社の人事の方と学生が食事をしながらカジュアルに話すような会です。参加している学生も2年生が多かったので、かつて就活生に見たような悲壮感もなく、ポジティブで楽しい雰囲気でした。
―最終的に選択肢を絞り始めたタイミングは?
Sさん:2年生の夏以降ですかね。外銀、商社、メガベンチャー、不動産まで、(1dayインターンを除いて)合計で13社ほどのサマーインターンに参加しました。ただ、まだ業界を絞るつもりはなかったので、とにかく「広く見てみよう」という感じでした。各業界の最大手から、急成長中の注目ベンチャーまで幅広くエントリーしました。
―「1dayインターンを除いて13社」は相当多いと思いますが、そのサマーインターン経験から見えてきたことは?
Sさん:消去法で選択肢がかなり絞られてきましたね。まず消えたのが、外銀。インターンに参加したのは、日本で「外銀」といえば3本の指に必ず入る有名企業でしたが、すぐに自分には合わないとわかりました。2dayインターンで、初日は金融全般に関する基礎知識の座学、2日目は具体的な投資案件について担当者として提案する疑似体験でしたが、あらかじめ決められたロジックの中で、金融業界独特のルーティンワークを正確にこなすという業務内容が、自分の飽きっぽい性格とは相性が悪いと感じました。
次に消えたのが「商社」
―サマーインターンで、他に選択肢から消えた業界はありましたか?
Sさん:商社ですね。サマーインターンでは、五大商社のうちの2社に参加しましたが、いずれも商社独特の上下関係が「合わないな」と感じましたね。大企業なので、それなりの年数をかけて経験を重ねれば成長できるシステムはあるのですが、入社2、3年目の若手社員に上司を超えてやろうという野心がないというか、現状に甘んじてしまっている印象が、両社共通してありました。
―具体的には?
Sさん:特に違和感を覚えたのは、ある社員の言葉ですね。数年目のとても優秀な人で、ジョブ(業務疑似体験型の選考フェーズ)でもリーダーシップを発揮している場面をたびたび目撃していました。そんな彼が懇親会で、自分の将来についてこんなふうに話していたんです。「ゆくゆくは独立するつもりなんだけど、うちの会社は福利厚生もちゃんとしてるから、中国の大学に留学させてもらって語学力を身につけてからにしようと思ってるんだよね」と。
それを聞いて「独立するつもりなら、今すればいいのに!!!」って強く思いました。「福利厚生がいいから」「留学費用を出してもらえるから」「お給料をもらいながら学べるから」と、損得勘定に従って足踏みをしているように見えてしまって。今、前に踏み出すのが怖いから、「留学経験」や「語学力」など、本当に必要かどうかわからない鎧をむやみに増やそうとしているのではないかと。
―サマーインターンを終えた時点で残った選択肢は?
Sさん:「外銀」「商社」「不動産」「メーカー」が消去法で外れて、あとは「IT」「コンサル」「教育」が残りましたね。
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あの名物経営者にアイデアを評価されて
Sさん:サマーインターンでは消去法で業界を絞りつつも、「楽しい」と思えるものにも出会えました。その一つに、「新規事業を考えること」がありました。これは、好きだな、と。
―なぜ「好きだな」と思えたのでしょう?
Sさん:自分のアイデアが、ある名物経営者に評価されたからですね。多分野で成長を続けているメガベンチャーのインターンに参加した時のこと。4、5人のグループでほぼ泊まり込みのような状態で新規事業を考え、最終日に経営陣の前でプレゼンするという内容だったのですが、僕らのチームが準優勝に選ばれたんです。経営陣のコメントは「もっとフィールドに出なさい。課題をリアルにしなさい」と辛口でしたが、とても嬉しかったし、充実感がありました。
―2年生のサマーインターンを通じて、どうやら自分は「新規事業を考えることが好きらしい」という点が見えてきたわけですね。
Sさん:そうですね、やっと(笑)。結局、その時のアイデアをブラッシュアップして、仲間と一緒に起業することにしました。そして、立ち上げから1年半が経過した今もその事業は順調に続いています。
―後編では、エリート就活生に人気の外コン、マッキンゼーから内定を獲得しながらも辞退、友人と3人で起業し今に至るまでの話を聞かせてください。
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