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知られざる中国新興企業の勢いと強さ【沈 才彬】

皆さんは「中国」について、どのようなイメージを持っているでしょうか?なんとなく「遅れている」というイメージを持つ人も多いかもしれません。しかしその実、中国は今では世界を代表するテクノロジーを持つ国に。分野によっては、アメリカをも凌ぐとすら言われています。そんな中国の勢いの源泉と、日本との違いとは。『中国新興企業の正体』(角川新書)を執筆した沈才彬さんに、お話を伺いました。

日本から見た「中国」のイメージは?

皆さんは「中国」について、どのようなイメージを持っているでしょうか?世界2位のGDPを誇る中国ですが、なんとなく「遅れている」というイメージを持つ人も多いかもしれません。

しかしその実、中国は今では世界を代表するテクノロジーを持つ国に。分野によっては、アメリカをも凌ぐとすら言われています。

この変化を推し進めているのは新興企業で、その勢いは日本企業の比ではないそう。

その知られざる中国経済の実態に迫った本『中国新興企業の正体』(角川新書)を執筆した沈才彬さんに、日本と中国の違いなどについてお話をお聞きしました。

はるかに勢いのある中国新興企業

ー4月に刊行された著書『中国新興企業の正体』が注目されていますね。

沈:出版してまだ2カ月ですが、その間に日本経済新聞や週刊東洋経済などの書評で紹介していただきました。私はこれまで三井物産戦略研究所のセンター長や多摩大学教授を勤めてきて、日本で10冊以上本を出しているのですが、出版後すぐ、これほど注目されたのは初めてです。

ーなぜ注目されたと思いますか。

沈:日本人が抱く中国のイメージを覆す内容だったからだと考えています。

例えば、これまでは中国といえば「安い労働力を活かした世界の工場」というイメージがありました。人口が多く、生産力はあるものの、あくまで欧米や日本の下請けばかりであると。

もしくは、中国と言えば「国有企業に支配されている経済」あるいは「コピー製品大国」であり、独創的な技術、イノベーションなどないのでは、というイメージが強かったと思います。

しかし現在、中国は世界でも注目されるような企業を数多く輩出しています。そして、この本で紹介している9大新興企業はすべて民間企業で、国有企業は1社もありません。また、イノベーションを成長の原動力とする企業です。

ー9大新興企業とはどのようなものでしょうか。

沈:まず、配車アプリを手がける「滴滴出行(デイデイチューシン)」。配車アプリと言えば、皆さんは真っ先に、アメリカの「Uber(ウーバー)」を思い浮かべるでしょう。

しかし、滴滴出行の利用者数は4憶人、登録ドライバーの数は1700万人と言われ、はるかにUberを上回っています。滴滴出行は設立からわずか5年で500億ドルの評価額が付けられました。

それから、自転車シェアサービス最大手の「モバイク」。日本でも2017年8月から札幌市でサービスが始まり、同年12月からは福岡市でも実証実験をしています。

設立からわずか2年で中国を含め9カ国・180都市でサービスを展開。利用者の登録数は2億人を超え、運用している自転車の台数は700万台以上にもなります。モバイクの評価額は20億ドルです。

そして商業用ドローンで世界最大手のDJI。手ごろな値段で個人でも購入して、すぐに使える、という点が人気を呼び、現在、世界100カ国以上で販売され、世界シェアの8割を握っています。DJIも評価額は100億ドルです。

中国におけるユニコーン企業数は世界第2位

ー著書では「アリババ」についても紹介されていますね。日本でもローソンで決済サービスの「アリペイ」が導入されるなど、なじみがありますが。

沈:はい。ネット通販最大手の「アリババ」はNY証券取引所に上場していて、2018年1月末時点で時価総額は5200憶ドルを超え、世界企業ランキングでも8位とランクされます。

日本で最も時価総額が高い会社はトヨタ自動車ですが、アリババはその2.5倍。中国の新興企業は、世界でもそれだけ評価されているということですね。

アリババは1999年に創設されましたが、現在は7万人を超える従業員を抱える巨大企業に成長しています。年間取引額はすでにamazonを上回っています。

創業者のジャック・マーは、今や中国で最も国際的に影響力のある経営者と言われ、昨年1年間で13カ国の国家元首や政府首脳と単独で会談を行っているほどです。

もう一つ、巨大企業で言えばSNSサービスを手がけ、facebookを急追する「テンセント」もあります。日本ではあまりなじみがありませんが、時価総額はアジア最大。2018年1月末時点で、約5600億ドルもあるのです。

世界企業ランキングでもアップル、グーグル親会社のアルファベット、マイクロソフト、amazonに次いで世界第5位の地位にあります。

ーなるほど。中国の新興企業の中には、それほど巨大になっているケースもあるのですね。

沈:そうなんです。そして、その他にも中国では「ユニコーン企業」が数多く生まれています。ユニコーン企業とは、創設10年以内で評価額が10億ドル以上、未上場で、テクノロジー企業のことを指す言葉です。

アメリカの調査機関が集計した結果では、2017年12月1日時点で世界には220社のユニコーン企業が存在すると言われています。そのうちアメリカ発の企業は109社で全体の半分近くを占めます。

これに続くのが中国発の企業で、59社。その評価額を合わせると約2600億ドルにもなるのです。

もちろん、先ほど紹介した「アリババ」なども、ユニコーン企業として頭角を現し、そして上場、世界から非常に高い評価を受けてきました。

日本でユニコーン企業と言えば、フリマアプリの「メルカリ」のみで、評価額は10億ドルでした。2018年6月には上場を成し遂げたため、一般に未上場企業を指す「ユニコーン企業」の枠組みからは外れてしまいましたが。

すると、日本のユニコーン企業はゼロと言うことになり、メルカリに続く候補も少ないのが現状です。

ーたった1社、メルカリだけだったんですね...。

沈:そうなんです。寂しい話ですが、テクノロジーの分野では、日本は大きく遅れを取ってしまっているとも言えるでしょう。

ーほかに紹介されている新興企業の中では、通信機器メーカーの「ファーウェイ」を知っている人も多いと思います。

沈: 今や移動通信設備の分野では世界1位のシェアを占めるまでに成長したファーウェイの強さは、巨額な研究開発投資にあります。2016年には1兆2700億円を研究開発に費やしていて、アップルの1兆1300億円、トヨタの1兆500億円を上回るほどです。

また、少し話は変わりますが、2016年・日本の大卒者の初任給は平均で約20万円、修士課程修了者は平均23万円というデータがあります。

ファーウェイには「ファーウェイ・ジャパン」という日本法人があるのですが、新卒エンジニアの初任給は約40万円、修士課程修了者は43万円と言われています。この高収入を支えているのは好調な業績。ファーウェイの純利益はNTTドコモの純利益を上回る水準に達しているのです。

そうして、優秀なエンジニアを集めて、さらに成長していこうという企業なのですね。

このような新興企業の実態を、日本の皆さんはどれほどご存じでしょうか?

ー躍進する中国と、ユニコーン企業の少ない日本。次回は、その違いはどんなところにあるのか、お伺いをしていきます。