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2050年のビジネスリーダーに求められる資質とは【ピョートル・グジバチ】

30年後の「エリート」とは、どんな人物なのか。未来をリードする人材のあるべき姿を追究する「就プロ」オリジナル連載、今回はピョートル・フェリクス・グジバチ氏にインタビュー。前回は、日本・世界を知るグジバチ氏から「日本の学生と世界の学生の違い」についてお話を伺いました。今回はついに、連載テーマでもある「2050年のビジネスエリートに必要な資質」について伺っていきます。

「未来を創造する」ビジネスリーダーを目指せ

―ピョートルさんには『ニューエリート』という近著がおありですが、ピョートルさんが考える「2050年のエリートに必要な資質」とは何でしょうか。

グジバチ:2050年のリーダーに不可欠なスキルセットの一つは、「未来について考えること」です。

今、多くの日本人の目は、東京オリンピックが行われる2020年に向いています。しかしオリンピックの後どうするのかについては、ほとんど声が聞こえてきません。

私の目には日本の人々が短期思考に陥って、2025年といった近い未来についてさえ、誰も考えていないように見えるのです。

ここ数年はインバウンド消費が話題になっていますが、「オリンピックの後にインバウンドをどう確保するのか」といった課題設定も出てきません。これはちょっとまずいのではないかと感じます。

私たちプロノイアグループは、「未来創造」をテーマにしており、2050年というテーマでもいろいろな企画を立てています。

スペースXやテスラを創業したイーロン・マスクは、未来について考え、そこで何が必要かを考えて、自分のビジネスにしています。

たとえば「2050年頃には大気中の酸素レベルが下がって、人間が生きていられなくなるかもしれない」という説があります。

それに対して「いかにして未来に酸素を作っていくか」を考える。たとえば車を環境に優しい乗り物とすることを掲げ、電気自動車の普及をビジネスとしていく。それがテスラですね。

スペースXも同様です。地球は人類にとって操作できない乗り物といえます。運悪く他の天体にぶつかれば、人類は滅びてしまう。そうしたリスクに対して、火星に行けるような宇宙船を考案し、それをビジネスにする。

そういう「未来創造」の考え方をしなければ、魅力的で意義のあるビジネスは生まれません。

30年先を見据えて、20代のうちから情熱を持って学習せよ

グジバチ:とはいえテクノロジーの進歩のスピードは早く、3年先、5年先の予測はできても、今から30年後に世界がどうなっているかはわかりません。あるいは2050年には脳内に端末が入って、脳からネット検索ができるようになっているかもしれません。

そういう状況においてリーダーに必要な力は、「直感と想像力と情熱」だと思います。

未来がどうなるのか察知し、未来にはあって今は存在しない価値を、ゼロから創造していく。それがこれからのビジネスリーダーの課題です。

そのために必要とされるのは、時代の流れ(トレンド)やビジネスモデル(パターン)を察知する直感力であり、そこで何をするかというビジョンであり、そのビジョンが現実のものとなったときに何が起こるかを想像し、伝える力です。

そして「なんとしてもこのビジョンを実現したい」という強い情熱です。その情熱から、突き当たった問題を解決するパワーが生まれてきます。

テクノロジーの動向や政治の動きを20代のうちに見極めておくことも、30年後のリーダーをめざす人には不可欠でしょう。

トレンドやパターン、そしてそれらが周期的に繰り返されるサイクルは、それを知れば一つのビジネスで役立つだけでなく、違う領域にも応用することができます。

たとえばファッションの世界では、10年ごとにトレンドが変わると言われています。今は90年代のファッションがブームと言われていますが、10年前には80年代のファッションが流行っていました。そうしたことを知っていると、次に何が来るかを予想できます。

学生の頃からできるだけ多くの領域のパターンやトレードを体験し、学んでほしいと思います。

恵まれた環境「東京」を活かせ

― 「日本の学生は、自ら情報を取りに行く力が弱い」とおっしゃっています。 

グジバチ:ええ。逆にそれができる人はすごく成長するし、成功できると思います。

学生のうちに社会に出たときの仕事について学ぶという点では、日本の学生はとても有利な立場にいると思いますよ。というのも日本の大学は、そんなに勉強しなくても卒業できるからです。アメリカやヨーロッパでは、大学生が勉強をさぼるとすぐに落第させられてしまいます。ですからアルバイトも企業研究もあまりできません。

多くの日本の大学は、週に2、3時間も勉強すれば卒業できてしまう。授業にしても、すべて出る必要はありませんよね。

それだけ自由な時間があるわけですから、いろいろな情報収集ができる。たとえば広告代理店の仕事に興味があったら、周囲で話が聞ける人がいないか探してみるべきでしょう。

東京であれば、誰かしらその業界で働いている人を見つけることができるはずです。いろいろな会社でインターンしてみたり、社会人が主催する勉強会に出てみるのもいいと思います。

東京にはそれぞれの業界ごとにたくさんの勉強会があります。これは世界でも珍しい例です。アメリカは国土が広いので、一つの街には特定の産業しかありませんが、東京には何でもあります。

大手町はウォールストリートのようだし、霞ヶ関はワシントンのようです。今、私が取材を受けているこの代官山はファッションで有名ですけれども、スタートアップ企業もたくさんあります。

私も多くのイベントを行っていますが、そこには役所の人から、スタートアップの経営者、研究者、学生まで、いろいろな人が参加してくれます。「知識のダイバーシティ」という点では東京はとてもレベルが高いと思います。

学生の場合、出身企業の色がついていませんから、どのコミュニティにも参加できますし、行けばどこでも歓迎されて、社会人の大人たちがいろいろなことを教えてくれます。

その環境を活かさない手はないと思います。

社会貢献をミッションとするリーダーが日本には必要

グジバチ:Googleのマネージャー教育では、「sympathy」「empathy」「compassion」、つまり「同感・共感・思いやり」が重視されていました。テクノロジーの発達により世界の変化が激しくなる中では、思いやりをもって人の気持ちに寄り添える共感力が、リーダーにとって必須の資質となってきます。

また自らのミッションを自覚し、「自分のためよりも人類のために生きる」という、システムシンキングの考え方も必要でしょう。

今、プロノイアグループで私と一緒に仕事をしてくれているメンバーを例に挙げると、彼女は小学校2年生のときにはすでに自信の意志を持ち、中国、カナダ、メキシコ、スペインで学びました。

そしてお父さんの病気をきっかけに「自分はいったい何をしたいのだろう」と考え、それまでの会社を辞め、多くの人の人生に貢献できる教育の仕事に就くことを決めたのです。

働くことにはさまざまなモチベーションがあり得ます。中国や東南アジアでは、マズローの欲求段階説でいう、生理的欲求のレベルにある人たちが存在しています。

しかし、そういった欲求が満たされている豊かな国、日本のリーダーは何をモチベーションとして人々を導いていくべきでしょうか。

私はそれは、たとえば社会貢献であり、自らに課したミッションなのではないかと感じています。