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大企業かベンチャーか それが問題だ【細谷 功】

細谷 功氏、連載記事第6回。就活生の間でも話題になることが多い「大企業か?ベンチャーか?」。なかなか答えが出ずに、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。本記事では、細谷氏ならではの、大企業とベンチャー企業の紹介をしています。自分が行くべきなのはどちらなのか、ぜひ参考にしてみてくださいね。

大企業に勤めることは「電車に乗ること」?

「川上と川下」という仕事の視点をこれまで提供してきました。

具体的に就職のことを考えると最もわかりやすいのは「川上=スタートアップ型のベンチャー企業」「川下=伝統的大企業」という違いです。今回はこれらの違いを考えてみます。

まずは参考になる言葉を一つ紹介しましょう。

"Going to work for a large company is like getting on a train -- Are you going sixty miles an hour or is the train going sixty miles an hour and you're just sitting still?"

(大企業に勤めるというのは電車に乗ることに似ている。あなた自身が時速60マイルで走っているのか、あなたはただ時速60マイルで走っている電車でじっとしているだけなのか?)

Jean Paul Getty (1892 -- 1976: US oil industrialist)

引用元となっているJean Paul Gettyというのは、アメリカの石油王です。

彼は「電車と乗客」とのアナロジー(類推)で大企業とその従業員の関係をうまく表現しています。「まさに...」という感じですので、この喩え話のどこがうまいのかを解説しましょう。

「電車=大企業」に乗ることと、「自転車=ベンチャー企業」に乗ることの違い

ベンチャーが「徒歩や自転車」だとすれば、大企業は「電車」である、というのはある側面におけるこれらの違いを端的に表しています。

ここで言う「徒歩や自転車」と「電車」の違いというのは文字通りのスピードの差というよりは(むしろスピードであればベンチャーの方が何倍も速いので)仕事のスケールの違いのことだと考えてもらえれば良いでしょう。

ベンチャーと比べると資本力など「ヒト・モノ・カネ」という経営に必要な資源に勝る大企業は一般的に「大きなこと」ができます。扱う金額や対象とする国の数も桁違いに大きいのが一般的ですから、そのような「大きな仕事ができる」のが大企業に勤めることの一つの大きなメリットです。

ただしここで注意が必要というのが冒頭の言葉です。

確かにやっていることは大きいですが、それは幾多の先輩や周囲の人たちが全てお膳立てをしたものであって、自分自身の役割はその中のほんの一部であることが大抵の場合だからです。

ところが往々にしてそこで「勘違い」が起こり得ます。

例えば、営業成績が苦もなく上がること、簡単に取引先が会ってくれたり時間を取ってくれたりすることはブランドの確立された大企業ならではのことであって、それは自分自身の本当の「実力」なのか単に「ブランドの七光り」なのか、それらを切り離すことは非常に難しいですが、多くの人は「勘違い」をしてしまうことになります。

「◯億円のプロジェクトを担当する」ことはできたとしてもそれはあくまでも何(十)人かの一人かも知れません(図参照)。

また「大会社の魅力」に惹かれて多くの人が集まってきて「持ち上げられる」ことで「小規模の取引先」の人に対して根拠のない優越感を持って接してしまったりすることも「勘違い」の一つです。長年このような環境下に置かれていると、もはやその状況から抜けるのが難しくなってしまいます。

ただし、「必ずしも自分の力で走っているわけではない」ことを割り引いたとしても「高速で走っている感覚」を味わっておくことは重要です。

いずれはベンチャーで働くとしても将来的に事業を大きくするイメージを持つためには(たとえ大部分は他人の力であったとしても)高速で走っている経験を積むことは必ず後に活きてくることになるでしょう。

逆に「徒歩や自転車」のメリットは何でしょうか?それは「手作り感満載」ではあっても自らの足で移動し、そこでうまく行くのも行かないのも全て自分の責任であるという感覚を持てることでしょう。

たとえ「スピード」では電車に劣っても、そのスピードは電車のモーターで実現されたものではなく、ほかならぬ自分自身の脚力によって実現されたものと言えるからです。

このような違いを考慮すると、「最高時速30kmでもいいから自らの足で漕いで汗だくで達成感を味わいたい」という価値観を持っているか、「必ずしも自分の自由にはならないかも知れないが、椅子に座って300kmで快適に走りたいか」の価値観の違いが「ベンチャーか大企業か?」という根本的な価値観を決めると言って良いでしょう。

これらは必ずしもどちらか一つだけを選ばなければいけないというものでもありません。

「最終的にどちらを選びたいのか?」を考えた上であえて反対の世界を選んでみることも一つの選択肢としてはあり得るでしょう。

ただし、現在の日本の就職市場では大企業からベンチャーに行く方がベンチャーから大企業への転職よりは一般的に言えば易しいでしょうから、その辺りも考慮しておく必要はあるでしょう。

小さくても自分でやっている感が大きいベンチャーか、大きいことはできても(少なくとも若いうちは)自分の貢献度は小さい大企業、上記のメリットやデメリットを考慮して最終的に自分の目指す方向性や性格・価値観などを考慮してキャリアプランを考えてはいかがでしょうか。

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